目次
序論:宇宙というフロンティアと、歪められた理想
人類が急増した人口を宇宙に移民させることで始まった「宇宙世紀(Universal Century: U.C.)」。地球の重力から解き放たれ、巨大な人工の居住地「スペースコロニー(サイド)」へと移り住んだ人々――スペースノイド。しかし、そのフロンティア精神の裏には、地球に留まり特権を維持し続ける特権階級「地球連邦政府」による、一方的な搾取と支配の歴史が存在していた。
この深刻な南北問題にも似た構造的対立の中、地球から最も遠い場所に位置するコロニー群「サイド3」において、ひとつの思想が産声を上げる。思想家ジオン・ズム・ダイクンが提唱した「コントリズム(宇宙植民地独立論)」と「ニュータイプ論」である。地球を聖地として保全するために人類はすべて宇宙へ移住すべきであり、宇宙という新たな環境に適応した人類は、認知能力を拡大させた新人類「ニュータイプ」へと進化し、互いに誤解なく分かり合えるようになるという理想の提示であった。
しかし、宇宙世紀0068年、ダイクンが急逝する。彼の側近であり、実権を握ったデギン・ソド・ザビをはじめとするザビ家は、ダイクンの死を連邦政府による暗殺と断定(異説あり)。サイド3を「ジオン公国」へと改組し、ザビ家による独裁体制を敷いた。彼らはダイクンの崇高な精神論を都合よく改変し、「優良種たるスペースノイドによる、旧人類(連邦政府)の打倒と地球圏の支配」という過激な選民思想へとすり替えていったのである。
ジオン公国は来るべき独立戦争に向け、新エネルギー源「ミノフスキー物理学」を応用した独自の軍事技術を開発する。それは、電波や赤外線などの電磁波を遮断し、既存のレーダー兵器を無力化する「ミノフスキー粒子」の散布下における近接有視界戦闘を前提とした兵器――人型機動兵器「モビルスーツ(MS)」であった。ジオン公国軍は「MS-05 ザクI」、そして傑作機「MS-06 ザクII」の量産に成功し、圧倒的な国力差を持つ地球連邦政府に対して、隠密裏に牙を研ぎ続けていた。
そして、宇宙世紀0079年1月3日。ジオン公国は地球連邦政府に対し、独立を宣言すると同時に宣戦を布告した。人類史上最大の犠牲者を出すこととなる「一年戦争」の幕が開いた瞬間であった。
第一章:開戦と「一週間戦争」――人道なき惨劇の始まり
開戦と同時にジオン公国軍が実行した作戦は、連邦政府の支持基盤である他のサイド(サイド1、2、4)への奇襲攻撃であった。ジオン公国軍総帥ギレン・ザビが掲げた「速戦即決」の戦略に基づき、宣戦布告からわずか数十時間のうちに、無防備なスペースコロニーの住民に対して核兵器やNBC(核・生物・化学)兵器、特に致死性の高い神経ガス「G3」が投入された。同じスペースノイドであるはずの同胞たちを虐殺するこの凶行は、ジオン公国の選民思想がいかに非人道的な領域に達していたかを示す象徴的な出来事である。
この大虐殺と並行して、ジオン公国軍は歴史上最も悪名高い質量兵器作戦「ブリティッシュ作戦」を決行する。それは、住民が全滅したサイド2のアイランド・イフィッシュ(直径約6.4キロメートル、質量数億トンに及ぶ巨大なシリンダー)の軌道を変え、南米ギアナ高地にある連邦軍総司令部「ジャブロー」へ直接落下させるという、狂気のコロニー落とし作戦であった。
連邦軍は地球防衛のために全宇宙艦隊を動員し、決死の迎撃を試みた。激しい迎撃戦闘により、コロニーは地球突入時にジャブローの手前で大きく破断。フロント部分はオーストラリア大陸のシドニー近郊に直撃し、残骸は太平洋や北米大陸へと飛散した。シドニーは一瞬にして消滅し、オーストラリア大陸の約16%が水没。この衝突はマグニチュード9.5以上の大地震と津波を引き起こし、地球全体の気候変動を誘発した。
開戦からわずか1週間。この「一週間戦争」と呼ばれる期間だけで、人類の総人口の約3割にあたる30億人近くが死亡するという、前代未聞の惨劇がもたらされたのである。
第二章:ルウムの死闘と南極条約の枷
コロニー落としによるジャブロー破壊に失敗したジオン公国軍は、第2次コロニー落とし(第二次ブリティッシュ作戦)を計画し、まだ戦火を免れていたサイド5「ルウム」への侵攻を開始する。これを阻止すべく、連邦軍はティアンム中将率いる主力の宇宙艦隊を派遣。宇宙世紀0079年1月15日、両軍はルウム宙域において正面から激突した。これが「ルウム戦役」である。
艦載艇や戦艦の数において勝る連邦軍に対し、ジオン公国軍はミノフスキー粒子を大量に散布し、レーダーを無効化した上で、量産型モビルスーツ「ザクII」の集団戦術を展開した。巨体でありながら俊敏に宇宙を舞うモビルスーツは、射程と防御力だけに頼る連邦軍のサラミス級巡洋艦やマゼラン級戦艦を次々と近接戦闘で撃沈していった。
この戦闘において、ジオン公国軍の士官シャア・アズナブル中尉は、赤くパーソナルカラーに塗装されたザクII(MS-06S)を駆り、通常の3倍とされる速度で戦場を疾駆。連邦軍の戦艦5隻を単機で撃沈するという伝説的な戦果を挙げ、「赤い彗星」の異名を地球圏全土に轟かせることとなる。また、ガイア、オルテガ、マッシュの3人からなる「黒い三連星」は、連邦軍総司令官レビル大将が乗る旗艦アナンケを撃沈し、レビル大将を捕虜にするという殊勲を立てた。
ルウム戦役はジオン公国軍の圧倒的勝利に終わり、連邦軍の宇宙艦隊は壊滅的な打撃を受けた。しかし、ジオン側もまた多大な兵員と物資を消耗し、短期決戦による連邦政府の無条件降伏というシナリオは崩れ去った。
1月下旬、ジオン公国は捕虜としたレビル大将を盾に、南極の連邦軍基地において降伏交渉を進めようとした。しかし、調印式の直前、レビル大将は連邦軍の特殊部隊およびジオン内部の反戦派の手引きによって劇的な脱出に成功。そのまま地球圏全土に向けて「ジオンに兵なし」と言い放つ歴史的な演説を行った。「ジオンもまたルウムの戦いで疲弊しており、降伏する必要はない」というレビル大将の告発は、連邦政府の戦意を再び燃え上がらせた。
結果として、1月31日に締結されたのは降伏条約ではなく、戦争のルールを定める「南極条約」となった。この条約により、核兵器や化学兵器の使用禁止、コロニー落としなどの質量兵器の使用禁止、捕虜の待遇改善などが合意された。これにより、戦争は一撃で世界を滅ぼす核戦争から、モビルスーツと従来兵器が泥沼化する長期の「通常消耗戦」へと移行していくのである。
第三章:地球降下作戦と、占領地における対峙
宇宙での決定的な勝利を背景に、ジオン公国軍は地球上に存在する豊富な鉱物資源(特にモビルスーツ生産に必要な希少金属やエネルギー資源)の確保と、連邦軍の地上拠点の無力化を目的とした「地球降下作戦」を開始した。
3月から5月にかけて、ジオン軍は複数回にわたりHLV(重質量打ち上げ機)を用いて地上へ兵力を投入。北米大陸、中央アジア、アフリカ大陸の主要拠点を次々と制圧していった。連邦軍の旧式な航空機や戦車部隊は、地上用に改修されたジオン軍の「MS-06J 陸戦型ザクII」の前に敗退を重ねた。
ジオン公国軍は占領地に「地球方面軍」を設立し、デギン公王の末子であるガルマ・ザビ大佐を司令官に任命。北米の旧連邦軍基地を接収した「キャリフォルニア・ベース」を拠点に、地上での軍需生産体制を整えた。また、中央アジアの鉱山地帯は突撃機動軍司令キシリア・ザビ少将の腹心であるマ・クベ大佐が統括し、地球の資源をH.L.V.でサイド3本国へと送り届けるパイプラインを構築した。
この占領期間中、地球の各地では悲劇と妥協が入り混じる「占領下の日常」が展開された。ガルマ・ザビのように現地住民の融和を図り、現地の有力者の娘(イセリナ・エッシェンバッハ)と恋に落ちるエリート軍人もいれば、マ・クベのように冷酷に資源を搾取し、連邦軍の反攻を阻止するために条約違反の核兵器さえ辞さない官僚的軍人もいた。また、ジオンの支配に抗う現地のゲリラ組織(アジア圏の「ゲリラ・バラム」やアフリカの抵抗組織)が組織され、局地的な抵抗運動が泥沼のゲリラ戦を引き起こしていた。
地球連邦軍は主要な領土の多くを奪われながらも、南米のジャブローを堅守し、物量に勝る国力を背景に反撃の機会を窺っていた。彼らが進めていたのは、ジオンのモビルスーツ技術を徹底的に研究・分析し、自軍独自のMSを開発・量産する一大反攻計画――「V作戦」であった。
第四章:V作戦と「白い悪魔」の目覚め
宇宙世紀0079年9月、地球連邦軍のモビルスーツ開発計画「V作戦」は、中立コロニーであったサイド7において最終段階を迎えていた。開発されたのは、中距離支援用の「RX-75 ガンタンク」、近接支援用の「RX-77 ガンキャノン」、そして近接白兵戦用として連邦軍の技術の粋を集めた「RX-78-2 ガンダム」、およびこれらを運用する最新鋭の強襲揚陸艦「ホワイトベース」である。
しかし、この極秘情報を察知したジオン公国軍のシャア・アズナブル少佐は、巡洋艦ファルメルを駆りサイド7への偵察を強行。独断で潜入した部下のザクIIがコロニー内部で戦闘を開始したことにより、サイド7は戦火に包まれた。
混乱の中、サイド7の住民であった民間人の少年アムロ・レイは、偶然にも放置されていたガンダムの操縦マニュアルを拾い、コックピットへと乗り込む。アムロは驚異的な直感とガンダムの圧倒的な性能(ルナ・チタニウム合金の装甲とビーム・ライフル)によって、襲撃してきた2隻のザクIIを一瞬にして撃破した。これが、後にジオン軍から「白い悪魔」と恐れられる伝説の戦士アムロ・レイの初陣であった。
サイド7の正規軍人がほぼ壊滅したため、生き残った士官候補生ブライト・ノアや、民間人の少年少女たち(カイ・シデン、ハヤト・コバayashi、フラウ・ボゥ、ミライ・ヤシマ、セイラ・マス)がホワイトベースを操船し、ガンダムを擁して戦場を脱出せざるを得なくなった。彼らは民間人主体の「オデッカ(急造)」の部隊でありながら、シャアの執拗な追撃をかわしつつ、地球へと降下していった。
地球へ降下したホワイトベース隊を待ち受けていたのは、ガルマ・ザビ率いる地球方面軍であった。北米大陸を舞台とした戦闘の中、アムロは徐々にパイロットとしての異常な才能を発揮し始める。そして、シャア・アズナブルの「ザビ家への復讐」という密かな思惑によって仕組まれた罠により、ガルマ・ザビは乗艦ガウごとガンダムへの特攻を敢行させられ、戦死した。ザビ家のプリンスの死は、ジオン公国全体に大きな衝撃を与え、ギレン・ザビによる「ガルマ追悼演説」によって、国民の戦意高揚に利用されることとなった。
第五章:地上戦の分水嶺――ランバ・ラルからオデッサ作戦へ
ガルマの復讐とホワイトベース追撃のため、ジオン本国から送り込まれたのは、「青い巨星」の異名を持つ歴戦の猛将ランバ・ラル中尉であった。彼は新型MS「MS-07B グフ」を駆り、ゲリラ戦術を駆使してホワイトベースを徹底的に追い詰めた。
ランバ・ラルとの戦いは、アムロ・レイにとって決定的な精神的成長をもたらすこととなる。アムロは「戦うことの意味」を見失い、一度はガンダムと共に脱走するものの、荒野でランバ・ラルやその内縁の妻クラウレ・ハモンと出会い、彼らのプロフェッショナルとしての人間性に触れることで、戦士としての自覚を深めていく。最終的にランバ・ラルはガンダムとの一騎打ちに敗れ、白兵戦の末に戦死。ハモンによる決死の特攻も、連邦軍の補給部隊を率いていたマチルダ・アジャン中尉の自己犠牲によって阻止された。尊敬すべき敵と愛すべき味方の死は、ホワイトベースの少年たちに戦争の残酷さを刻み込んだ。
11月、連邦軍は地上戦における決定的な大反攻作戦「オデッサ作戦」を敢行する。レビル大将率いる第3軍を中心とした大部隊が、マ・クベ大佐の守るヨーロッパ・中央アジアの鉱山基地へと進軍した。この戦いには、連邦軍が極秘裏に量産を進めていた初の量産型MS「RGM-79 ジム」が実戦投入され、MS戦においても連邦がジオンと対等以上に戦えることを証明した。
マ・クベは南極条約を無視して水素爆弾による脅迫を行うが、アムロが駆るガンダムによってミサイルの核弾頭を空中分解され、作戦は失敗。ジオン公国軍は地上の最大の資源供給源を失い、宇宙への撤退を余儀なくされた。この勝利により、地上の制権は完全に地球連邦軍へと傾いた。
オデッサを脱出したホワイトベースは、南米の連邦軍本部ジャブローへ入港。しかし、ジオン軍はホワイトベースを追跡し、ジャブローに対する空前の降下作戦を展開した(ジャブロー防衛戦)。水陸両用MS「MSM-07 ズゴック」や「MSM-04 アッガイ」を投入したジオンの奇襲部隊に対し、アムロはシャア・アズナブルとの再戦を果たし、これを撃退。ジャブローの強固な防衛網と連邦軍の圧倒的な生産力により、ジオン軍の地球方面軍は事実上崩壊した。
連邦軍はジャブローで量産されたジムとマゼラン・サラミス級戦艦を次々と宇宙へ打ち上げ、主戦場を再び宇宙へと移すための「星一号作戦」の準備を整えていく。
第六章:大宇宙の決戦――ソロモン攻略と「ソーラ・システム」
宇宙世紀0079年12月、連邦軍は宇宙におけるジオンの二大重要拠点の一つである宇宙要塞「ソロモン」の攻略に着手する。ソロモンはドズル・ザビ中将率いるジオン公国宇宙攻撃軍の本拠地であり、地球周回軌道からジオン本国(サイド3)へと続く防衛線の要であった。
12月24日、連邦軍第2連合艦隊は、無数の凹面鏡を配置して太陽光を一点に集め、巨大な熱線として照射する戦略兵器「ソーラ・システム」を投入。ソロモン要塞の主要な砲座と軍港を焼き払い、ジオン軍の防衛網を壊滅させた。
形勢不利を悟ったドズル・ザビ中将は、妻子(ミネバ・ラオ・ザビら)と残存兵力を脱出させるため、自ら試作型巨大モビルアーマー(MA)「MA-08 ビグ・ザム」に搭乗して出撃。圧倒的なメガ粒子砲とIフィールド(ビーム偏向バリア)によって、連邦軍の艦隊を次々と沈めていった。
しかし、スレッガー・ロウ中尉のコア・ブースター(劇場版ではGファイター)による特攻と、それに呼応したアムロのガンダムの零距離攻撃により、ビグ・ザムは撃破される。ドズルは最期まで肉身を挺して機銃を放ちながら爆発の中に消えた。ソロモンの陥落により、ジオン公国の防衛網は大きく裂け、連邦軍はこの要塞を「コンペイトウ」と改名し、最終目標であるサイド3および要塞ア・バオア・クー攻略への橋頭堡とした。
第七章:ソーラ・レイの惨劇と、ザビ家崩壊の兆し
ソロモンの失陥とドズルの死は、ジオン公国本国に深刻な影を落とした。国力の限界を悟っていたデギン・ソド・ザビ公王は、ザビ家独裁による戦争継続に疑問を抱き、連邦軍の総司令官レビル大将との極秘和平交渉を決意する。
12月30日、デギン公王の乗るグレート・デギンと、レビル大将率いる連邦軍第一艦隊は、和平調印のための会談の席に着こうとしていた。しかし、主戦派である長男ギレン・ザビ総帥は、父の動きを事前に察知していた。
ギレンは、密かにサイド3の密閉型コロニー「マハル」を改造して製作させていた超巨大コロニーレーザー「ソーラ・レイ」の照準を、和平交渉の行われている宙域へと合わせた。
「我がジオン公国の未来のために」
ギレンの冷酷な決断により、ソーラ・レイが発射された。直径数キロメートルに及ぶ光の奔流は、デギン公王のグレート・デギンと、レビル大将が乗る旗艦フェーベを含む連邦軍第一艦隊の約半分を一瞬にして蒸発させた。
この一撃によって連邦軍は精神的主柱であるレビル大将と主力を失い、大混乱に陥った。しかし、ギレンの計算は完璧ではなかった。この父殺しの暴挙を知った突撃機動軍司令キシリア・ザビ少将は、兄ギレンに対する激しい不信感と怒りを募らせていく。
最終決戦の舞台となる宇宙要塞「ア・バオア・クー」の司令部において、ギレンが指揮を執る中、背後に立ったキシリアは冷酷に銃口を向け、ギレンの頭部を撃ち抜いた。
「父殺しの罪は免れん」
戦況が最も混沌としている最中に起きた、司令官ギレンの暗殺。キシリアが司令を引き継いだものの、この指揮権の移行による混乱はジオン公国軍の通信網と指揮統制を決定的に麻痺させ、最終防衛線の決壊を早める最大の要因となったのである。
第八章:ニュータイプの悲劇とア・バオア・クーの結末
一年戦争の最終局面は、皮肉にもジオン・ズム・ダイクンが予言した「ニュータイプ」の覚醒と、その軍事利用による悲劇が頂点に達した場でもあった。
ジオン軍はキシリア直属の「フラナガン機関」において、高い空間認識能力と脳波(サイコミュ)を用いた兵器の開発を進めていた。その結実が、エルメス(MAN-08)に乗るインド人少女ララァ・スンであった。
シャアによって戦場へ見出されたララァは、サイコミュによる遠隔操作兵器「ビット」を用いて連邦軍を圧倒。しかし、同じく戦場の中でニュータイプとして極限まで覚醒しつつあったアムロ・レイのガンダムと相まみえる。二人は戦闘の中で、言葉を介さない精神の共鳴(ニュータイプ同士の対話)を体験し、互いが魂の片割れであることを瞬時に理解した。
しかし、戦場の現実は彼らの交感を許さなかった。アムロのガンダムがシャアのゲルググを切り伏せようとしたその瞬間、ララァはシャアを庇って自らガンダムのビーム・サーベルの前に身を投げ出した。
「ああ、アムロ……刻が見える」
ララァの死は、アムロとシャアの二人の心に、生涯消えることのない深いトラウマと、互いに対する決定的な憎悪の楔を打ち込むこととなった。
12月31日、ア・バオア・クー攻略戦は肉弾相打つ大乱戦となった。アムロは未完成のニュータイプ専用モビルスーツ「MSN-02 ジオング」に搭乗したシャアと激突。激しいドッグファイトの末、ジオングとガンダムは互いに大破する。
相打ちとなった両者は、爆発する要塞の内部において、生身でのサーベルによる決闘へと至る。幼い頃からの宿命、ララァを失った怒り、そしてザビ家への復讐。すべてが交錯する中、セイラ・マスの必死の仲介により決闘は中断された。シャアはザビ家の生き残りであるキシリア・ザビが要塞から脱出するのを阻止するため、脱出用ザンジバルのブリッジに向けてバズーカを放ち、ザビ家の宿願に終止符を打った。
一方、大破したガンダムのコア・ファイターで脱出したアムロは、ニュータイプの共鳴能力を使い、崩壊していくア・バオア・クーから脱出できずにいたホワイトベースの仲間たちに向けてテレパシーで語りかけ、彼らを脱出へと導いた。ガンダムという兵器を失いながらも、仲間たちの元へと生還したアムロの姿は、ニュータイプが兵器ではなく、人と人が繋がるための希望であることをかすかに示していた。
終章:傷だらけの終戦と、宇宙に漂う火種
宇宙世紀0080年1月1日。ザビ家の滅亡に伴い、新たに発足したジオン共和国の臨時政府は、地球連邦政府との間で終戦協定を締結した。調印式は月の都市グラナダにおいて行われ、丸一年におよんだ人類史上最悪の戦争は、ついに終結した。
しかし、その代償はあまりにも大きかった。地球圏の全人口の半数が失われ、地球環境はコロニー落としによって致命的な打撃を受け、多くのスペースコロニーが破壊されて修復不可能な死の街と化した。
さらに、戦争が終わっても、戦争の根本原因であった「地球と宇宙の格差」は何一つ解決されていなかった。連邦政府は自らの権益を守るために再び保守化し、スペースノイドへの弾圧を強めていく。また、ジオン公国軍の残党の一部は終戦協定を拒否し、小惑星アクシズへと逃亡するか、あるいは地球圏の暗礁宙域に潜伏して「ジオン再興」の機会を狙い続けた(後のデラーズ紛争やネオ・ジオン抗争へと繋がる火種である)。
一年戦争は、人類が宇宙という新天地に進出しながらも、重力の軛(くびき)から逃れられず、かつて地球上で行っていた戦争の愚行をより巨大なスケールで繰り返した、精神の敗北の記録でもあった。星々の残照が照らし出すのは、勝利の栄光ではなく、未だ癒えぬ人類の深い傷痕だったのである。